Top Message/ トップメッセージ

中期経営計画を着実に遂行し
グループを挙げて飛躍的な成長に挑戦

株式会社吉野家ホールディングス
代表取締役社長 河村 泰貴

吉野家が想定以上の成果を上げ、はなまるも黒字回復。
中期経営計画の業績目標を1年前倒しで達成。

2023年度の事業環境を振り返ると、3年間にわたり外食市場を大きく揺るがしたコロナ禍の影響が国内・海外ともにほぼ払拭された一方で、インフレの波が強く押し寄せ、変化への対応が求められた1年でした。
特に米国市場は、ここ数年の急速なインフレ進行を受け、あらゆる物価が著しく上昇し、それに伴い最低賃金も大幅に引き上げられている状況です。また中国市場は、不動産不況に端を発する経済減速により消費者心理が冷え込む状況となりました。若年層の失業率も高まっており、これは採用面で優秀な人材の獲得に利する部分もありますが、営業面では他の地域と同様に、原材料価格や光熱費の上昇が利益を圧迫しています。
国内市場は、米国ほどの物価高騰に至っていませんが、過去30年間続いたデフレからインフレに転じ、それ自体は経済成長への好影響が見込まれるものの、消費者の可処分所得がなかなか上がらず、私たち外食産業の事業環境としては「良いインフレ」になっていません。コスト環境としては、光熱費および物流費の上昇、為替の円安による影響が生じており、当社グループの主要原材料である米国産牛肉は、現地の供給逼迫を受け、今後も価格上昇が懸念されます。
そうした中で2023年度の営業状況は、主力の吉野家事業が既存店売上高の伸長と外販事業の堅調により計画以上の増収・増益となり、はなまる事業も売上高を伸ばすとともに黒字回復を果たしました。厳しいコロナ環境を克服すべく、2020年度から2021年度にかけて損益分岐点を引き下げてきた効果が表れ、トップラインの拡大に伴う変動費の増加とコストの上昇をカバーし、利益を確保することができました。海外事業は、米国が引き続き好調を維持し、中国およびアセアン地区も前年度を上回る増収・利益改善を遂げました。
結果として連結業績は、期初予想を超えて売上高が1,874億円(前年度比11.5%増)、営業利益が79億円(同132.5%増)に達し、中期経営計画(2022年度~2024年度)の業績目標に定めた「売上高1,800億円」「営業利益70億円」を1年前倒しで達成しました。

各事業セグメントにおいて増収・利益改善を遂げた1年。
吉野家はテイクアウト専門店の出店拡大を開始。

2023年度の吉野家事業は、「客数重視」と「成長投資の加速」をテーマに掲げ、新規顧客の獲得と既存顧客の来店頻度向上への取り組みとして、引き続き出店・改装によるC&C(クッキング&コンフォート)店舗およびジグソーカウンター導入店舗への転換を進めていきました。商品面では、牛丼に次ぐ通年メニューの柱として育成してきた「から揚げ」のレシピとオペレーションを見直し、短時間での提供を可能とすることで販売拡大を図りました。
「客数重視」については、ユニークユーザー数やリピート率といったKPIの改善を店長・エリアマネジャーレベルで意識し、商品・サービスの品質向上に努めた結果、人流の回復を積極的に取り込むことができたと捉えています。2023年10月には、コスト上昇への対応として「牛丼並盛」など主要商品の価格改定を実施せざるを得ませんでしたが、客数の減少を招くことなくプラス成長を維持できました。
「成長投資の加速」では、C&C店舗を2023年度内に412店舗に拡大し、全店舗数に占める割合を34%まで高めました。低投資モデルの導入により、転換のスピードを上げていることに加え、店舗の改装について四半期ごとに「バージョンアップ会議」を実施し、現場からの提案を次回の改装発注に活かすようにしています。女性のお客様でも入りやすいC&C店舗への転換によって、女性顧客比率は現在28%まで上昇しており、吉野家が目指してきた30%まであと一歩となりました。またC&C店舗は、イートインだけでなくテイクアウトの利用しやすさも備えているため、それも女性のお客様の拡大につながっています。こうしたテイクアウトニーズの増加を捉え、2023年度より「テイクアウト・デリバリー専門店」についても出店拡大しました。
コロナ禍を機に冷凍牛丼の具・レトルト牛丼の具の販売を伸ばした外販事業は、2023年度も引き続き堅調に推移し、約110億円の売上規模となりました。次の成長に向けてお客様をいかに捉え、吉野家以外のグループ会社の商品開発をどう進めていくか。それがこれからの課題になります。
はなまる事業は、4年ぶりの営業黒字化を必達目標とし、人流の戻りを確実に捉えてトップラインを拡大すべく、全社を挙げて「人財を琢く」「商品を研く」「店舗を磨く」の各テーマに邁進しました。その結果、2023年度の営業利益は黒字回復を遂げ、グループ全体の利益改善にも寄与しましたが、市場の追い風に負うところが大きく、力強い回復とは言い難い面があります。今後のはなまる事業は、収益力の向上とリブランディングへの取り組みを加速しつつ、中長期の成長に向けて戦略の方向性を明確化していく必要があります。
海外事業は、中国およびアセアン地区においてコロナ禍からの市場回復が進み、業績を大幅に改善しました。ただし中国では、前述の通り不動産不況を背景に消費者心理が落ち込み、期後半から影響が表れてきました。そうした中で当社グループは、上海郊外への出店拡大や現地事業会社の統合など新たな施策を打ち出し、成果を上げつつあります。米国は、メニュー展開と店舗改装の効果、オペレーションを効率化するキッチンの導入により、2023年度も好調を維持しました。しかし、年度内に予定していたカミッサリーセンター(食材加工工場)の稼働や、カリフォルニア州から他州への出店拡大といった動きが遅れているため、2024年度は成長戦略のスピーディーな実行が求められます。
育成中のラーメン事業も、人流の回復を業績の改善につなげた1年でした。特に空港や駅構内など人が集まる立地で店舗を営業するせたが屋は、前年度の低調から一転して売上を拡大することができました。郊外型のラーメン店を展開するウィズリンクも好調に推移し、さらに新たな動きとして今年度には、英国スコットランドに1号店をオープンする予定です。当社グループ初の欧州出店であり、将来に向けたビジネスチャンスを拓く役割を期待しています。

中期経営計画最終年度は成長投資を大幅に増強。
20年ぶりの積極出店で吉野家の「進化」を加速。

以上の通り2023年度は、各事業セグメントが好成果を上げ、連結業績において中期経営計画の売上高・営業利益目標を1年前倒しで達成しました。営業利益79億円は、BSE問題の発生により業績が大きく悪化した2004年度以降の20年間で最高の利益水準です。しかし経営者としては、当然ながらこの現状に満足することはできません。中期経営計画に定めた「売上高1,800億円」「営業利益70億円」という業績目標は、株主の皆様からお預かりした資金に対し、安定配当による還元を行う上で最低限の数字であり、それを達成したところで胸を張れるわけではないと考えています。
現行の中期経営計画は、2016年度より始動した10年間の長期ビジョン「NEW BEGINNINGS 2025(NB2025)」において、その拡大ステージを進めるところでコロナ禍により中断・足踏みを余儀なくされたため、「2024年度までの3年間で最低限これだけは目指す」という株主の皆様への約束として策定したものです。私たちはこの計画のもと、C&C店舗へのフォーマット転換をはじめとする吉野家事業の強化や海外事業の拡大など、当社グループの「進化」を推し進めつつ、はなまる事業やラーメン事業の業績をコロナ禍前の水準に回復させる「再生」に取り組んでいます。計画1年目の2022年度は、「再生」に遅れが生じましたが、2023年度を経てほぼキャッチアップした状況にあります。
計画を締め括る2024年度は、「進化」をさらに加速させるべく成長投資を大幅に増強し、次の飛躍に向けて事業規模の拡大を図っていきます。その中心となるのが、吉野家事業の積極出店です。国内吉野家の店舗数は、2023年度末現在で1,229店舗ですが、2024年度はこれを1,323店舗まで拡大していく計画です。吉野家初の国内1,300店舗突破であり、これほどの純増は20年ぶりとなりますし、私自身にとっても社長就任以来初めて経験する規模の積極攻勢です。
この新規出店の中には、2023年度から開始し、順調に成果を上げているテイクアウト・デリバリー専門店の増加が含まれています。コロナ禍を機に消費者行動として拡がったお持ち帰りニーズを積極的に取り込む狙いとともに、好立地の物件と十分な人手を確保することが困難な出店環境への対応として、テイクアウトに特化した店舗形態に高いポテンシャルを見込んでおり、2024年度は116店舗(前年度差80店舗増)へ拡大していく予定です。
新たな挑戦に臨む吉野家事業は、2024年度のテーマを「再点火~全員挑戦~」と定めました。「再点火」は文字通り、従来の安定軌道における飛行から、もう一度出店拡大へスイッチを入れ、加速していくイメージです。そして出店拡大には、店舗を運営する「ひと」の成長が必要であり、新たに店長、エリアマネジャー、営業部長を育成しなければなりません。この戦略を成功させるためには、社員全員がレベルアップし、今以上に成長することが求められるのです。「挑戦」は成功を約束してくれる訳ではありませんが、成長は約束してくれます。そうした想いを込め、「全員挑戦」という言葉に全社を挙げて成長を目指していく決意を示しました。
この1年間の戦いに勝ち切れるかどうかで、吉野家事業がこれから先、再び大きく成長し続けることができるか、決まってくると言っても過言ではありません。また吉野家事業だけでなく、はなまる事業の収益力向上とリブランディング、海外事業の強化など、すべての事業セグメントにおいて2024年度は、将来の成長・発展を占う重要な1年であり、全員挑戦の意識をグループ全体で共有していく考えです。
なお中期経営計画では、3年間で400億円の成長投資を予定し、そのうち100億円をM&A枠として設定していますが、このM&Aについては今のところ実行に至っていません。基本的には、ラーメン事業の拡大につながるM&Aを想定しており、これまでは持ち込まれてきた案件に対し、検討を進めてきました。2023年度より当社グループから積極的にお声掛けしていく活動を開始しましたので、2024年度中に具体的な内容がまとめられればと期待しています。
2024年度の連結業績は、売上高2,030億円(2023年度比8.3%増)、営業利益70億円(同13.4%減)、経常利益74億円(同14.2%減)、親会社株主に帰属する当期純利益40億円(同25.6%減)を見込んでおり、引き続き中期経営計画の最終年度目標をクリアするものの、増収・減益を想定しています。減益要因の中心は、ここに述べてきました吉野家事業の出店拡大による一時的な費用増加ですが、米国産牛肉の価格上昇などコスト環境の悪化も利益を圧迫する見通しです。しかし予算における想定とは別に、企業経営としては利益の拡大を伴う成長を目指すのが当然のスタンスであり、あくまで増益達成への意思をもって取り組んでまいります。

2040年に向けた新長期ビジョンの策定が進行中。
経営理念「For the People」の未来のあり方を具体化。

私たちは「NB2025」に続く新たな長期ビジョンの策定に向けて、国内および海外のグループ会社から公募・選抜したメンバーによる「フォーラム2040」を発足し、2年間にわたり活動を進めてきました。まず2022年度は、56名のメンバーが8チームに分かれてテーマを定め、未来予測の手法で2040年を見据えたシナリオづくりを行い、当社グループを取り巻く社会・環境が「これからどうなっていくか」を展望しました。そして2023年度は、その予測・展望を材料に、当社グループが「これからどうありたいか」を考え、フォーラムとしての提言がまとめられました。予測・展望を踏まえつつ、自分たちはどんな未来を実現していくのか。今度は自らの意思が問われ、それに応えていく内容になります。
コロナ禍が長期化する中で新長期ビジョンの策定をスタートした理由は、「NB2025」が足踏みを余儀なくされ、先の見通しが非常に困難な状況となったことから、足もとに捉われずに視点を遠くに置き、皆で一緒に未来に目を向け、前に進んでいく必要性を感じたためです。結果として「フォーラム2040」の活動は、喧々諤々の議論を通じて参加メンバーが未来への前向きな想いを共有し、期待と希望を社内全体に拡げていく効果をもたらしました。
新長期ビジョンの策定は現在、「フォーラム2040」から経営トップである私に託され、フォーラムのメンバーによってまとめられた提言をもとに、具体的な意思決定に向けて考えを深めているところです。私としては、2024年度内に方向性を定め、ある程度明確化した指針を出すつもりです。
ただし今回の策定は、2015年に「NB2025」を策定した時と比べて、非常に難しいと感じています。当社グループが持続的に成長・発展していくための条件として「飲食業の再定義」が求められた前回の策定時は、その実現に向けて「競争から共創へ」「ひと・健康・テクノロジー」というキーワードが導かれ、それらが示す方向に社会が進んでいくという確信めいたものがありました。しかし今回は、これから確実に人口が減少していく世界において、経営理念「For the People」をどのような形で具現化していくか、今までの延長線上にない視点が重要になってくると思います。

モニタリング可能なマテリアリティKPIの設定により
サステナビリティへの取り組みを全社的に促進。

私たちは2023年1月、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを強化すべく「サステナビリティ推進委員会」を設置し、前年に特定した「5つのマテリアリティ(重要課題)」について、取り組みの目標を示すKPIを設定しました。各KPIは、2030年度までに達成を目指す数値を定めており、2030年をゴールとするSDGsへの貢献を意識しています。
「5つのマテリアリティ」は、いずれも当社グループの社会的存在意義にかかわる大切なテーマですが、その中でも特に「ひと」に関するテーマは、「For the People」を経営理念に掲げる会社として最も重要度が高く、どこよりも真剣に取り組んでいかなくてはならないと認識しています。KPIでは、女性社員比率や女性管理職比率、有給休暇取得率とともに従業員エンゲージメントの向上を設定しました。私自身は、ライフワークバランスに関する制度整備や組織風土の改革もさることながら、従業員にとって会社が成長している実感を持てることが一番大事なのではないかと思っています。
また子ども食堂などを通じた「店舗の地域貢献活動」の拡大は、「食」の提供に携わる会社としての社会的責務であり、私が重視している以上に、活動に参加した社員たちが皆「もっとやるべきだ」「やりたい」と言ってくれます。SDGsのテーマでも「貧困をなくそう」という項目は筆頭に挙げられており、個人的にも強い問題意識を持っています。マテリアリティのKPIでは、2030年度目標として全都道府県に活動のネットワークを構築していきますが、それと同時に、グループ全社での提供食数や活動に参加する社員の延べ人数を拡大したいと考えています。
環境配慮・気候変動対応については、国内工場から排出する廃棄物の再生利用、特定プラスチックの削減、エコレストランの継続認定をKPIとし、目標を定めました。しかし環境問題については、事業活動やサプライチェーンの中でさまざまな要素が絡み合い、負荷の軽減においても非常に複雑な面があります。また取り組みにも流行り廃れがあり、10年前に求められた環境対応が現在は有効とされなかったり、その逆のケースも起きています。そこで必要となるのが、その環境活動がコストダウンやクオリティアップにつながるかどうかという視点です。すなわち経済価値を取り組みの物差しとすることで、継続的な環境活動が可能になるというのが、私たちの基本スタンスです。
このように今後は、モニタリング可能なKPIの設定により、全社でサステナビリティへの取り組みを促進し、企業価値および社会価値の向上につなげていきます。そして事業活動においては、当社グループの長年の課題となっていた収益性の改善・安定化に目処が立つところまできており、今後はグループを挙げて成長企業に挑戦していく所存です。その点で2024年度は、非常に大事な勝負の1年となります。
ステークホルダーの皆様におかれましては、当社グループが実現していく未来への飛躍にご期待いただき、引き続き長期的なご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2024年4月 株式会社吉野家ホールディングス
代表取締役社長 河村 泰貴