Yoshinoya
beef吉野家の牛肉

株式会社吉野家ホールディングス グループ商品本部 商品部 畜産チーム バイヤー 辻田 英雄さん

INTERVIEW 株式会社吉野家ホールディングス
グループ商品本部 商品部 畜産チーム
バイヤー辻田 英雄

INTERVIEW

お客様が安心できる牛肉を持続的に提供し続けるために、複数の組織・チームで何重にも
「安全性」を支えています

吉野家ホールディングスグループでは、つねにお客様に安全な商品を提供するため、原料調達から店舗での提供にいたるまで、食の安全性を十分理解し、お客様に満足いただける管理体制の構築に取り組んでいます。おもに吉野家の牛丼に使用する米国産牛肉についても、国際基準、米国基準、国内基準の3つの安全基準を厳守し、「安全・安心」に配慮した牛肉を使用しています。
さらに、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大の影響下では、改めて「安定供給」への取り組みの重要性が顕在化しました。「安全・安心」な牛肉を「持続的に供給」するための当社グループの取り組みをご紹介します。

01 吉野家の米国産牛肉は、
国際基準と米国農務省の安全基準を
クリアしています

吉野家の牛肉は「国際食品規格」に沿って生産されています

当社グループでは、米国の大小さまざまのパッカー(食肉加工業者)と取引していますが、安全性の基準はパッカーによって変わることはけっしてありません。まず、牛肉の安全性の国際基準として、コーデックス委員会(消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1962年にFAO(国際連合食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により設置された国際的な政府間機関)の定める国際食品規格(コーデックス規格)の基準があります。当社グループが使用する米国産牛肉も、まずこの国際基準に沿うかたちで生産された牛肉であり、安全性が担保されています。

次に、国際基準を満たしたうえで、国ごとに安全基準が設定されています。米国では、食肉の衛生と安全性を確保するために、FDA(保健福祉省食品医薬品局)、EPA(環境保護庁)、そしてFSIS(農務省食品安全検査局)という3つの政府機関が、緊密な協力関係を保ちながら、それぞれ厳しく規制・監視を行っています。

家畜の疾病や動物医薬品の残留まで、米国3政府機関が厳しく監視しています

まず、「FDA」は牧場で生産者が使用する動物医薬品の認可と使用方法の設定を、「EPA」は飼料作物に使われる農薬の残留基準の設定を行っています。生産農場で牛を育てるにあたっては、飼料に対する厳しい基準によって安全性が徹底され、それらをクリアした飼料だけが使われています。また、経済合理性の観点から、安定した品質の牛を生産するサイクルを確立させる面でも、飼料は科学的かつ厳密に計算されたものでなければなりません。たとえば、多くの米国産牛肉は「穀物肥育(グレインフェッド)」ですが、牛は最初から穀物を食べて育つわけではありません。そこで、飼料としての穀物を少しずつ食べていくことで慣らしていくわけですが、その量やタイミングなどがパッカーおよび契約農家の技術と経験に左右されるわけです。当社グループは、信頼できるパッカーが生産する牛肉だけを吟味し、質の差が出ないようにつねに心がけています。

最後に、「FSIS」は加工工場における家畜の疾病検査、病理学的剖検、農薬や動物用医薬品などの残留検査を行っています。FDAやEPAが設定した適正な使用方法や残留基準を、生産者がきちんと守っているかどうか、パッカーの加工工場で検査するのがFSISの役目です。加えて、FSISは、加工工場などの衛生管理のための指導・監督も行っています。

02 現地工場で検査・洗浄を繰り返し、
厚生労働省など日本の安全基準も
クリアしています

米国農務省の監督のもと、現地加工工場でも繰り返し品質を確認します

牛が加工工場に搬入される際は、USDA(米国農務省)の獣医官により「生体の目視検査」「疾患症状がある場合の隔離・後処分」などが厳しくチェックされ、USDAの検査官により、枝肉、内臓ともに、「特定危険部位除去」も検査されます。また、工場において加工する際は、枝肉を分割するための各種器具類を、1頭処理するごとに熱水で洗浄。熱い蒸気によって枝肉を滅菌(スチーム・パスチャライゼーション)したり、 有機酸(酢酸、乳酸等)を使って殺菌したりと何重にも洗浄を実施します。そもそも米国では、すべての工程が正しく行われているかをUSDAの検査官が確認できなければ工場を操業できず、USDAの検査官が工場に常駐するようなかたちで、厳重に品質管理を行っています。

日本に輸入される際は、農林水産省と厚生労働省が連動して検査します

もちろん、日本でもかなり厳しい輸入基準が課されています。まず、農林水産省はおもに「伝染性疾病が国内に侵入することの防止」を、厚生労働省はおもに「衛生上の危害の発生の防止」を、両省が連動するかたちで管理しています。具体的には、家畜伝染病予防法に基づき、農林水産省の動物検疫所が、海外からの畜産物を介して家畜の伝染性疾病が侵入することを防止するため、畜産物を対象に輸入検査を行います。伝染性疾病が海外で発生した場合、畜産物等の輸出入を一時的に停止することもあります。

動物検疫所で検査を受けた食品は、食品衛生法に基づき厚生労働省の検疫所に輸入届出がされます。そして、食品衛生監視員により、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止すべく、輸入貨物の審査や検査の要否判断を行います。

国際基準に基づく米国基準、日本基準で安全性を確認

国際基準「コーデックス委員会」が設定 国際基準「コーデックス委員会」が設定

当社社員も必ず現地におもむき、飼料や工場の体制を監査・確認しています

繰り返しですが、国際基準、米国基準、日本基準すべてをクリアした牛肉だけを調達し、商品に使用しています。また、わたしたち社員も現地におもむき、パッカーとの関係構築を含めて、実際に安全であるかどうかを監査・確認をしています(2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大により現地の工場への訪問を一時的に中止していました)。「安全・安心」と「経済合理性」を両輪で追求するうえでは、相手に任せきりするのではなく、自らが積極的に取り組むのがいちばん良いと考えているからです。

トレーサビリティーについても、日本に輸入されるときに貨物ごとにUSDA が発行する「ヘルス(衛生条件証明書)」が付いており、関係省庁とも情報が共有されているため、問題があればすぐに追跡・特定できるかたちで安全性が担保されています。もちろん、わたしたちも現地訪問時には飼料をチェックしたり、工場の体制を確認したりして、安全性を担保するための仕組みを何重にもチェックしてまいりました。ほかには、パッカーの日本法人や牛肉の輸入に関わる専門商社の存在もあり、まさに業界全体で情報交換をしながら、日本の消費者が安全かつ安心して購入できる牛肉を、安定的に確保することをつねに心がけています。

03 吉野家の工場にいたるまで何重もの
チェックを設定し、
安全管理を徹底しています

大きな検査だけでも5回の厳しいチェックの工程をたどります

ここまで述べてきたように、当社グループは関係省庁および各協力会社と連携し、何重にもわたる安全管理の仕組みのもとで米国産牛肉を調達しています。その工程を簡単にまとめると、まず1回目のチェックとして、生産者(契約農家)から牛が加工工場に納入されるときに、USDAの獣医官により、健康な牛かどうかなどを検査します。次に、工場においてUSDAの検査官により、枝肉と内臓、特定危険部位の除去等を検査し、衛生状態を検査します。これが2回目のチェックです。さらに、パッカーのラボでの衛生検査が一連の仕組みのなかに組み込まれており、これが3回目のチェック。牛肉の総量があまりに多いため、ラボではロット単位での検査になりますが、日本向けには貨物ごとにヘルス(衛生条件証明書)が付けられて輸出されることになるわけです。

米国産牛肉が日本に輸入される際にも、当然厳しいチェックの工程をたどります。まず、動物検疫所が、書類とその中身が合致しているかどうか、実際に箱を開けて貨物のチェックを行います。そして、先に述べたように、動物検疫所や厚生労働省の検疫所が、輸入届出物の審査・検査を行います。これが4回目のチェックになります。

吉野家の工場では、最終的に人の目で一つひとつ牛肉を確認しています

そうして、一時的に冷蔵庫に保管されたのちに、当社グループの工場へ入荷されます。そこで一定以上の能力を有したスタッフが全箱を開けて品質を確認し、吉野家製造規格に適した独自の「HACCP総合衛生管理システム」に基づく生産体制管理と店舗供給を進めていきます。この工程が5回目のチェックです。さらに、このチェック工程のなかでも細かい検査を行います。当然ながら、牛肉をスライスするときに脂身の量や品質状態を確認します。また、肉についた余計な筋や脂身を人の手でひとつずつ丁寧に除去するトリミングの工程は「肉のチェック作業」も兼ねており、色や匂いなどを人の目で一つひとつ確認して、吉野家の基準を満たす肉のみを選り分けます。

異常を見逃さないためには、「異常があるかもしれない」という前提に立ってチェックすることが必要です。たとえば、米国内の工程に問題がなくても、輸送中になんらかの不具合が起こるかもしれません。絶対はないので、異常があればすぐに検知できる仕組みであることが重要なのです。そして、最後の最後は吉野家の各店舗において、キャストが目で確認することを徹底しています。

牛の納入から当社工場にいたるまで、何重にもチェックを実施

1回目

米国生産者(契約農家)から牛を加工工場に搬入
USDAの獣医官により、「生体の目視検査」「疾患症状がある場合の隔離・後処分」などをチェック

2回目

米国パッカー(食肉加工業者)の工場
USDAの検査官により、枝肉、内臓、特定危険部位除去の検査と衛生状況の検査

3回目

米国パッカー(食肉加工業者)の工場
工場ごとにラボを設置しており、衛生検査を実施

4回目

日本への輸入
農林水産省の動物検疫所による輸出入検査の後、厚生労働省の検疫所に輸入届出がなされ、食品衛生監視員が輸入貨物の審査や検査の要否を判断

5回目

当社グループ工場
スタッフが全箱を開けて品質をチェック
吉野家独自の「HACCP総合衛生管理システム」に基づき、生産体制管理・店舗供給を行う

04 新型コロナウイルス感染症の
拡大にともなう
調達環境の変化への対応

各協力会社とのパートナーシップによる持続的な安定供給を実現

ここまで牛肉の「安全・安心」への取り組みについてご説明しましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大における「持続的な安定供給」への当社グループの取り組みについてもご説明します。

2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大により、米国の加工工場では一時的な稼働率の低下がみられました。生産者が提供する牛の頭数には影響がないものの、加工工場における人員の不足により、一定期間において米国産牛肉の供給量が低下したのです。それ自体は一時的であっても、以前より世界的な牛肉需要の増加にともなう供給不足の状況にあったことから、米国産牛肉の安定的な調達は極めて困難な状況となりました。当然ながら、ショートプレート(牛バラ肉)を中心に大量の牛肉を必要とする当社事業の継続においてリスクとなったのです。

こうした状況に対しても、当社は米国産牛肉を複数の国内協力会社を通じて仕入れを行ってきたことがリスクヘッジの効果を発揮しました。各社との長年の取引実績とパートナーシップによって調達困難な状況でも調達ルートを確保し、安定した供給量を維持することができたのです。今後も当社は協力会社とのコミュニケーションと信頼関係を深め、調達環境の変動に対応してまいります。

牛肉をプロの目線で見定め、パッカーへの適切なフィードバックを行っています

米国の加工工場では、コロナ禍であっても米国の安全基準は遵守され、適切な加工処理は継続して行われています。しかし、個々の取引先の規格に適合した加工処理のステップでは、一時的な対応力の低下から安定性・一貫性に新たな課題が生まれました。例えば、赤身と脂身の比率やカットのしかたなどを一定の規格に保つことが困難になってしまったのです。それはパッカーにとって不本意な状況であり、当社にとっても吉野家の規格に満たない牛肉が供給されれば牛丼の味を落とすことにつながってしまうため、たとえ供給量・価格が安定していても「安定供給」とはいえません。

こうした規格のブレが起こるリスクに対しても、当社では万全のチェック体制を設けています。当社グループの工場では、以前より工場スタッフだけでなく、わたしたち商品部 畜産チームのメンバーも工場を訪問し、各パッカーより入荷される牛肉の品質をチェックしてきました。コロナ禍においても、規格に合わない牛肉があれば協力会社とともに検証し、米国のパッカーに対して忌憚のないフィードバックを行うことで品質の改善に結びつけることができました。

平時であれば、わたしたち社員が定期的に直接パッカーを訪問し、吉野家の牛丼と当社が求める規格の意味をご理解いただくことで規格の遵守を求めていきます。しかし、渡航が困難なコロナ禍においては、牛肉のプロとしての的確・適切なフィードバックを行い、コミュニケーションを強化していくことが重要です。それがサプライヤーの品質管理における課題解決のサポートとなり、安定供給の維持に繋がると考えています。

05 お客様に安心・満足いただける
「おいしい牛肉」を届けるのが、
わたしたちの使命です

牛肉のおいしさを引き出す「熟成解凍」をはじめ、日々研究を重ねています

以上のように、平時の重層的な検査体制に加え、変化に対しても当社グループは万全の体制で安定供給を維持し、牛肉の品質管理を徹底しています。当社が牛肉の品質にこだわるなかで見えてきたのは、「高価な原料が必ずしもおいしい牛丼になるわけではない」という事実です。使用部位を拡げるために研究を重ね、当社グループは、つねに製品にとって最適な加工手法を追求しています。

たとえば、2014年に、吉野家では「熟成解凍」を開始しました。熟成とは、牛肉を適正な温度で寝かせることでたんぱく質をうまみ成分(アミノ酸)に変化させる方法です。わたしたちは、牛肉のおいしさを「しっとり感」という言葉で表現していますが、牛肉を急速解凍するのではなく、熟成解凍することでまろやかで深みのある味に変えることができるのです。具体的には、熟成専用の冷凍庫で約2週間以上寝かせ、じっくり熟成させながら解凍を行い、肉のおいしさを引き出していきます。すると、氷結晶が赤身に残らずに、舌触りがよりなめらかな、食感が良い牛肉になるのです。

スライス方法にもこだわり、これからもつねに品質向上に努めてまいります

また、肉をカットするときも専用のスライサーを使い、牛丼をもっともおいしく食べられる厚さに薄くスライスします。 このように、当社グループの工場では、生産機器の選定から、工程の変革までをつねに繰り返しています。付加価値を創り出すためには、商品開発や店舗での取り組みだけでなく、私ども商品本部畜産グループと工場が連携してできることもあります。解凍の仕組みだったり、スライスの仕方だったり、安定的に生産できる仕組みだったりと、日々工夫を重ねながらより良い牛肉を作ることにこだわっています。

これからは、ただ安いものを提供すればいいという時代ではありません。お客様の「おいしい」を支えているのは、最終的には商品をご提供する店舗のオペレーションですが、その店舗にもっとも安全で良質な牛肉を届けることがわたしたちの使命です。どのような状況にあっても持続できる原料調達を実現し、工場が安定的に生産でき、品質が安定することが、最終的なお客様の「おいしい」につながると考えています。

気になるギモン

国によって牛肉の安全基準にちがいはありますか?

コーデックス委員会が定めた基準(国際基準)に準拠するかたちで、各国でも運用されています
基本的には、消費者の健康保護を目的としたコーデックス委員会が定めた基準(国際基準)に準拠するかたちで各国では運用されています。もちろん、日本でも同様です。

牛肉の安全性をどこで、何回チェックしていますか?

主要審査・検査だけでも、米国で3回、日本で2回の計5回行っています
主要なものだけでも、米国内で3回、日本で2回の計5回の審査・検査をしています。ただ、各工程においても複数のチェックが組み込まれているため、実際はそれ以上の回数のチェックを繰り返していることになります。

米国の消費者は、牛肉の安全性をどのように受け止めていますか?

国が定めた厳しい基準をクリアしたものとして、大多数の人が受け入れています
国の機関であるUSDAが牛肉の安全性を担保しているため、基本的に、米国の消費者は「各種の厳しい基準をクリアした安全な食べ物」として受け入れています。