INTERVIEW
株式会社吉野家ホールディングス
グループ商品本部 商品部
穀物野菜チーム
バイヤー深津 篤史
生産者との信頼関係を育み、
吉野家の牛丼のこだわりを実現できる
「たれ通りの良い米」の安定調達を実現
吉野家ホールディングスグループでは、確かな品質の商品をいつでも変わらずにお客様にご提供するため、厳選された安全な原材料を安定調達できるサプライチェーンを構築しています。今回は、原材料の中でも吉野家で提供される米の調達にクローズアップしてお伝えします。
牛丼の主役は、牛肉とたれかもしれません。しかし、牛肉とたれを迎える米もまた、たれ通りのいい最高のマッチングとなるよう厳選を重ねてブレンドされ、味のブレない品質管理が行われています。そして、食文化の異なる海外の吉野家でも、国内と同等品質の牛丼を提供するための努力が続けられています。
吉野家の牛丼に求められる米は、昔から一貫して「たれ通りの良い米」とされています。軟らかく粘りの強い米は単体ではおいしいものの、牛丼に合わせたときのたれ通りは悪く、やがてたれを吸水してベチャついてしまいます。そのため、牛丼には粒立ちが良く、程よい粘りと甘みを併せ持つ米が求められるのです。
吉野家ホールディングスグループでは、グループ全体で年間約3万トン近くのお米を使用しており、半分以上は吉野家向けとなります。この数量を安定的に供給すべく、全国各地の産地から様々な銘柄を調達しています。全国展開しているチェーンストアであることから、店舗オペレーションを統一するため、年間を通して米の品質を安定させる必要があります。そして、それを叶えるのが当社のブレンド技術です。
現在、供給している吉野家米のブレンドの種類は全国で10種類前後あり、年間100種類以上の配合を試作して検証を行っています。米は年一作の農産物であることから、毎年、作柄や産地・銘柄ごとに品質・特性は変化します。そのため、ブレンドの変更と検証は毎年継続的に実施されています。
吉野家米のブレンド検証では、まず理化学検査によって米単体での品質・性状を分析し、ブレンドの適性を見極めます。そのうえで配合する米の種類や比率を検討し、最終的に官能検査によって食味を確認し、吉野家米のブレンドを確定しています。米のたれ通り・粒立ちが良く、程よい粘り・甘みを有しており、牛丼としての一体感があることが大前提となります。
米は日本の主要農作物であり、その安全性を確保するため、法律に基づいた厳格な検査が実施されています。具体的には、農薬・肥料の使用方法のチェックや、農薬・カドミウム等の残留検査、栽培記録の作成などが行われています。さらに、吉野家ホールディングスでは、米トレーサビリティ法に基づいて入荷するすべての米の検査記録や履歴をスピーディにトレース(追跡)できる体制を構築しています。
吉野家の各店舗に供給される米は、ブレンドされている米の産地・銘柄・等級から、精米工場での製造ロット、生産者の検査記録までさかのぼることができます。万が一、品質のトラブルが起こった場合には、迅速に問題のある流通経路を特定し、原因究明と対処が可能です。
米やその加工品の流通の各過程において、取引記録の作成・保存と産地情報の伝達が法律で義務づけられています。
原材料の安定調達を図るには、信頼できる生産者とのつながりを広げていくことが大切です。そのため、吉野家ホールディングスのバイヤーは、大規模な生産法人から小規模の兼業農家まで、生産者のもとに足を運び、顔を合わせて信頼関係の構築を図っています。また、各地で生産者を対象とした勉強会や交流会を開催し、地域の生産者の皆様とのコミュニティを作り上げることで、事業発展につながる生産者同士の情報交換をお手伝いしています。
生産者と吉野家ホールディングスの取引は、信頼関係があって初めて、安定的な取引に繋がると考えています。米は毎年、相場や収穫量が大きく変動する農作物です。そこで、生産者に安心して既定の生産量に必要な作付けを行っていただけるよう、吉野家では複数年契約を基本とした取引をしています。加えて、各地で定期的に「生産者大会」を開催し、生産者と対等な「顔の見える関係」を大切にしています。皆様から寄せられるご要望やご提案を採り入れ、生産者と発展性のあるwin-winな取引を追求しています。
また、生産者の皆様が納入した米に対し、毎年の銘柄評価(食味・物性データ)をフィードバックし、次期生産に向けた対策や新たな手法を検討していただいています。評価をもとに改善のサイクルを回していただき、次年度以降の継続的な品質向上に寄与しています。
福岡県うきは市の「JAにじ」で開催された農業祭りに、吉野家の移動販売車「オレンジドリーム号」を出店。地場の米を使った牛丼を提供し、イベントを盛り上げました。
検査を通過した玄米には、まだ石粒や虫などの異物混入のリスクが残っています。この異物除去の工程では高精度の選別機械を用い、米穀業界の一般的な水準を大きく上回る品質基準を設け、100%に近い異物除去を実現しています。また、ヒューマンエラーによる品質管理上の事故が起こらないよう、全国の精米工場で定期監査を実施するほか、原材料の受入検査の徹底などの現場指導にも注力しています。
本来、米には賞味期限がありませんが、吉野家ホールディングスでは鮮度管理の観点から、精米から店舗納品までの目安の期間を10日以内に設定し、店舗では30日以内を使用期限としています。もっとも、店舗では原材料の必要量を毎日発注して入荷するため、米が店舗で長期保管されることはありません。店舗スタッフのオペレーションについても、エリアマネジャーがつねに品質管理や衛生管理の状況をチェックしています。そのほか、保管時の水濡れや破袋のリスクを想定し、米の包材の強度や空気孔の位置などの見直しを継続的に行っています。
吉野家ブランドは日本を飛び出し、いまや米国、東アジア、東南アジアで約900店舗が展開され、日本国内の店舗数に迫る勢いを見せています。吉野家ホールディングスグループでは海外への進出に当たり、吉野家の牛丼の味を厳密に規定した「主要原材料規格書」をベースとし、現地での品質管理を行ってきました。この「主要原材料規格書」に沿った品質管理によって、牛肉とたれ以外の原材料が基本的に各国の統括会社ならびにFC企業の裁量による調達であっても、牛丼の味に大きなバラつきを生じさせずにいます。米についても、「主要原材料規格書」の品質基準に則り、出店地域の国内で産出された米によって、牛丼に最適なブレンドが行われています。中国であれば中国の米を、米国であれば米国の米が使用されています。
しかし、エリアごとの食文化や消費者の好みの影響を受ける中で、共通の規格に基づく品質を維持することは容易ではありません。そこで、各国の商品担当者・品質管理担当者が判断に困ったとき、もっとも「吉野家の牛丼の味」を本質的に理解する存在として、吉野家ホールディングスの商品バイヤーが相談を受ける体制を整えています。また、各エリアの品質管理担当者、ならびにフィールドカウンセラーが、店舗での管理体制や原材料の調達先を定期的に監査・指導し、世界中どこでも同等品質の「吉野家の牛丼」が食べられるよう努力を重ねています。
特性の異なる米をブレンドしています
程よい甘み・粘りのあるお米と、粒立ち良くやや硬質系のさっぱりとした味わいのお米を独自のバランスで組み合わせてブレンドしています。
「はなまる」に納入する米も調達しています
「はなまるうどん」等を展開する(株)はなまるで使用する米の仕入れも吉野家ホールディングスで一括して行っています。
実際の店舗で食べる牛丼を忠実に再現しています
さまざまな配合パターンの米を、店舗と同様にテストキッチンで調理された牛丼としてバイヤーが実際に試食して評価しています。物性値のデータに基づいた検討も行いますが、データ上で優れている米が、実際に食べてみてもおいしいとは限りません。そのため、必ず最終形となるメニューに落とし込んだ状態での品質確認にて採用の可否を決定しています。
コールセンターに寄せられるお客様の声や店舗からの報告にバイヤーも目を通しています
お客様からの品質に関するクレームや、店舗スタッフからの原材料に対する不満や懸念の声は、コールセンターを通じて担当のバイヤーに報告が届く仕組みとなっています。店舗での調理に問題があるケースもあるため、報告内容を精査し、必要に応じて原材料の流通経路をトレースして原因の究明や改善に取り掛かります。