Promise to Customers/ 「お客様」への約束

ケア事業「吉野家のやさしいごはん」
我が国における高齢化の進行を見据え、新たな「食」の需要を捉えるべく、
吉野家はケア事業を立ち上げ、介護食の開発・提供を開始しました。
高齢者の皆様に「食」の喜び・楽しみをお届けし、生活の豊かさに貢献します。
株式会社吉野家 新業態営業本部 ケア事業 事業部長 佐々木 透
PROFILE
1959年生まれ。製菓専門学校の教授経験や中食事業での開発プロジェクトリーダーの経験が評価され、2002年5月吉野家ディーアンドシー入社、商品開発部に配属され、吉野家事業の商品開発に従事する。企業内起業家育成塾へ公募し、高齢者向けの食事を提供するケア事業を立ち上げる。2016年2月より現職。

健康寿命の延伸に寄与する商品で新たな市場の開拓にチャレンジ

高齢者向けの食事を提供するケア事業は、2015年に私が企業内起業の公募に応じる形で立ち上げました。それまで商品開発の仕事に15年間携わっていましたが、今までの冷凍「牛丼の具」は、高齢になった自分の父親には肉が大きく、食べることが困難でした。父親が食べられる牛丼を開発したいと思ったことが起業の原点です。吉野家にとってケア事業の取り組みは、国が進める「健康寿命の延伸」に寄与する商品を開発し、新たな市場を開拓するチャレンジです。そして、吉野家をかつて支えていただいたお客様が高齢となり、ご来店ができなくなる中で、その方々への恩返しとして「おいしさ」を届け続けたい、という想いも込めています。

商品づくりとテストマーケティングに1年以上を費やし、2017年2月に「吉野家のやさしいごはん 牛丼の具」をリリースしました。医師や管理栄養士からの助言を受け、介護関係者へのアプローチや施設の視察を行い、さまざまなハードルを越えてきましたが、現場を実際に回ってみると、高齢者の食事をめぐる多くの課題にも直面しました。

牛丼の具の写真
電子レンジ、湯煎いずれかで温めるだけで提供できる。

吉野家の味を守ることにこだわりつつ嚥下・咀嚼しやすく加工し、減塩化

介護食には、高齢で低下した嚥下・咀嚼機能への対応と塩分の低減が求められます。よりやわらかい肉質の牛肉を細かな形状に変え、とろみを加えながらも吉野家ならではの「おいしさ」を感じていただくには、タレの味を維持することが絶対条件です。塩分を抑えつつ吉野家の味を守るための成分調整に多くの時間を要しました。

完成した「吉野家のやさしいごはん 牛丼の具」は、塩分量を店舗で提供する牛丼の約4割に低減し、「やわらかタイプ」「きざみタイプ」の2種類を用意しました。薄味という介護食の既存イメージを払拭し、「外食の味」による喜びが感じられる商品として介護関係者から高く評価され、発売初年度は約3万食を介護施設・給食事業者に納入しました。

製造コストがかかるため、従来型の介護食と比較すると販売価格が高い商品ですが、施設における「ハレの日」の食事としてご提案し、イベントグッズの貸し出しにより牛丼パーティーなどの催事化を促進することで、導入拡大につなげています。

弱い力で噛める「やわらかタイプ」、舌でつぶせる「きざみタイプ」2種類の写真
弱い力で噛める「やわらかタイプ」(左)
舌でつぶせる「きざみタイプ」(右)の2種類が選べる。

外食ならではの喜び・楽しみを活かし高齢者が食事に求める豊かさを提供

開発段階で視察した介護施設の中には、自由の少ない単調な生活の中で、入居者が食事に喜び・楽しみを見出せないような現場もあり、大いに考えさせられました。高齢者の方々もやはり食事に豊かさを望んでおり、それを楽しむことは、心のケアにつながる効果もあると思います。実際に介護施設の牛丼パーティーでは、ふだん食事にあまり興味を示さない高齢者がおかわりを求めたり、認知症の方が活気を取り戻す様子がうかがえました。

ケア事業部では、当社グループにしかできない外食の喜びを提供することで、高齢化社会の豊かさに貢献し続けていきます。現在は、介護食市場に一歩足を踏み入れた段階であり、私たちの取り組みがまだ十分に認知されていないことが課題です。しかし介護食は、高齢者という弱者の命にかかわる食事ですので、安易な広告宣伝の強化等によって販売の急拡大を目指すのではなく、絶対に安心・安全なものとして介護の現場に信頼された上で、高齢者の支持を得ていくことの方が大切だと考えています。当事業では、引き続き安心・安全を徹底した質の高い商品づくりを行い、吉野家ブランドに対する信頼を築き上げていきます。

販路を拡げ、商品ラインナップを拡充 外食産業のミッションとして推進

2017年度の販売実績は、独立経営の介護施設と受託給食事業者が中心でしたが、さらなる導入先の獲得に向けて介護施設の運営企業本部へのアプローチも実施し、2018年度はそれらを含めた販売拡大を見込んでいます。また、在宅介護を受けている高齢者への販路も拓き、通信販売によるBtoC展開を本格的に進めてまいります。

現在、商品ラインナップは牛丼の具と豚丼の具を販売していますが、今後はさらに幅を拡げ、将来的には、糖尿病・腎疾患者の健康管理向け処方食など医療系分野への参入も視野に入れていきます。

またケア事業の推進に際して、介護の現場や市場への理解を深めることを重視し、部員に介護系資格の取得を促しています。これにより、従来以上にお客様視点に立った営業活動・提案につなげていく方針です。

高齢者向けの「食」の提供は、その楽しみ・喜びを待っている多くの人々がいる事業であり、私たち外食産業に課せられたミッションであると思います。将来的には、この事業を外食業界全体に広めるべく、他社とも連携していきたいと考えています。